一目惚れの彼女は人の妻
 そして2回目の打ち合わせの日。

 1回目と同じ会議室で、メンバーも田中部長が抜けた以外は1回目と同じ。今日、というより今回からの議題は要件定義。課長曰く、ユーザー側にとっては一番大事なフェーズらしい。

 と言っても、もっぱら課長がメインで話し、私は時々意見を聞かれたり、フォローする程度。それは俊君の方も同じで、メインは齋藤さんで、俊君は議事録のためだと思うけど、ひたすら下を向いてメモを取っていた。

 それでも、俊君は時々顔を上げ、他の人にはたぶん気付かないぐらいの微かな笑みを、私に向けてくれたりした。

 俊君……大好き。

 3時間ほど過ぎ、ようやく打ち合わせが終わった。各々、立ち上がって資料なんかを鞄に仕舞っている時、私は勇気を振り絞って俊君に声を掛けた。

「中山さん。今日の内容で確認したい所があるんですが、"折り入って"お聞きしても良いでしょうか?」

「あ、はい。構いませんよ?」

 俊君と二人だけで話したいので、私は"折り入って"を強調したつもりだけど、大丈夫かなあ。特に、齋藤さんと篠崎課長。

 二人はメインだから、話に入って来そう、と心配したのだけど、齋藤さんは俊君に「お先に」と言ってさっさと帰って行ったし、篠崎課長に至っては、

「お茶でも飲みながら、ゆっくりやったらどうかな?」

 と言ってくれて、俊君に軽くお辞儀をして行ってしまった。

 もしかして俊君と私って、みんなから"ただならぬ関係"に見られてたりするのかな。だったら嬉しいけども。
< 66 / 100 >

この作品をシェア

pagetop