一目惚れの彼女は人の妻
「危うくって、濡れ衣だったの?」
「そうですよ。当たり前じゃないですか。でも、すぐに真犯人がまた痴漢して捕まって、俺を痴漢と間違えた女の子が、”やっぱりあっちの男だった”って言ってくれたから良かったものの、危うく警察に連れて行かれるところでした。今思い出しても、冷や冷やものですよ」
「なんだ、そうだったんだあ……」
「もしかして、宏美さんは俺の事、痴漢だと思ってたんですか?」
「実はそうなの。おっちょこちょいで、ごめんなさい」
私はペコリと頭を下げ、チロッと舌を出した。
「勘弁してくださいよ。そんな訳ないじゃないですか……」
俊君は、今日は初めての爽やかな笑顔を私に向けてくれたのだけど……
「あっ」
と言って表情を変えた。何かを思い出したのか、あるいは何かに気付いたみたい。
「あの夜の公園での出来事は、もしかして俺の痴漢を……って、してませんけど、やめさせようとしたんですか?」
「実は、そうなの」
「自分の身を犠牲にして?」
「うん」
”あなたが好きだから”って言いたかったけど、さすがに恥ずかしくて言えなかった。
「ご親切に、ありがとうございました」
え?
俊君は、おどけながらそう言ったのではなく、真顔で言った。それも低くて、堅い声で。
「そんな、ありがとうだなんて……」
「では、失礼させていただきます」
俊君はすくっと立ち上がり、私に深々と頭を下げた。顔は見えない。
「ちょっと待って。私は、ひ……」
”人妻じゃありません”と言う間も与えてくれず、俊君は行ってしまった。
「そうですよ。当たり前じゃないですか。でも、すぐに真犯人がまた痴漢して捕まって、俺を痴漢と間違えた女の子が、”やっぱりあっちの男だった”って言ってくれたから良かったものの、危うく警察に連れて行かれるところでした。今思い出しても、冷や冷やものですよ」
「なんだ、そうだったんだあ……」
「もしかして、宏美さんは俺の事、痴漢だと思ってたんですか?」
「実はそうなの。おっちょこちょいで、ごめんなさい」
私はペコリと頭を下げ、チロッと舌を出した。
「勘弁してくださいよ。そんな訳ないじゃないですか……」
俊君は、今日は初めての爽やかな笑顔を私に向けてくれたのだけど……
「あっ」
と言って表情を変えた。何かを思い出したのか、あるいは何かに気付いたみたい。
「あの夜の公園での出来事は、もしかして俺の痴漢を……って、してませんけど、やめさせようとしたんですか?」
「実は、そうなの」
「自分の身を犠牲にして?」
「うん」
”あなたが好きだから”って言いたかったけど、さすがに恥ずかしくて言えなかった。
「ご親切に、ありがとうございました」
え?
俊君は、おどけながらそう言ったのではなく、真顔で言った。それも低くて、堅い声で。
「そんな、ありがとうだなんて……」
「では、失礼させていただきます」
俊君はすくっと立ち上がり、私に深々と頭を下げた。顔は見えない。
「ちょっと待って。私は、ひ……」
”人妻じゃありません”と言う間も与えてくれず、俊君は行ってしまった。