一目惚れの彼女は人の妻
「あんな女って、誰の事だよ?」

 "女"と聞いて、すぐに想ったのはもちろんヒロミさんの事だが、恵美とは一言も彼女の話をしてないから、彼女の事を言ってるとは思わなかった。ヒロミさんは、決して"あんな女"なんかじゃないし。ところが、

「とぼけないで。ホームセンターにいた、冴えない人妻に決まってるでしょ?」

 ヒロミさんの事だった。しかも、恵美は聞き捨てられない事を言った。

「冴えないって、ヒロミさんがか?」

「ヒロミって言うんだ、あの女。お兄ちゃん、名前聞いたの?」

「いや、旦那がそう呼んだんだ」

 自分で"旦那"と言った時、胸の辺りがズキンと痛んだ。

「ああ、そうか。旦那さんの方は、かなりのイケメンだったけどね……」

 恵美はそう言うが、俺はヒロミさんの旦那の事なんか憶えてない。というか、ろくに見てなかった。イケメンなのか……

 それにしても、恵美には、ヒロミさんは冴えない女に見えてたのか。俺にとっては、人生で初めて見た、最高に魅力的な女性だったのにな。

「あんなツンケンした地味女が、よくあんなイケメンと結婚出来たもんだわ。案外、あっちの方はお盛んだったりして……」

「やめろ!」

 恵美が、ヒロミさんの事を口汚く罵しるのを聞いてられず、俺は恵美を怒鳴ってしまった。

「俺は寝るから、おまえは出てってくれ」

「ピラ男もエサ食べないし、お兄ちゃんもピラ男も、めんどくさい!」
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