一目惚れの彼女は人の妻
「いいから、行けって……」

 俺は”思い出すな。思い出さないでくれ”と念じながら、恵美の肩を押し続けたのだが、

「あ、思い出した。ホームセンターで遭った人妻だ。子連れの」

 あちゃー、思い出しちまった。

「あの人なんでしょ? ねえ?」

「そ、そんな偶然は……」

「あったんでしょ?」

「……ありました」

 俺って、嘘つけないんだよなあ。残念な事に。

「何やってんのよ、お兄ちゃん!」

「い、いや、何もしてない。たまたま方向が一緒だったから……」

「許せないわ」

「だから、酒を飲んだだけなんだから、許してくれよ?」

「許せないのは、あの浮気女よ。夫がいて、子どもまでいるのに、お兄ちゃんに色目を使うなんて。あたし、絶対許さない!」

「まあまあ、落ち着けよ。深入りしないからさ。な?」

「本当に?」

「ああ」

 俺はプンプン怒る恵美の背中を押し、部屋から追い出した。

「本当にダメなんだからね!」

 恵美は部屋を出た後も、ドアの向こうからそう叫んだ。親に聞かれたら困るだろうが……

 ダメだって事は、俺自身わかってるさ。痛いほどに。
 ああ、こんちくしょー!
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