一目惚れの彼女は人の妻
 俺は宏美さんに付いて行き、会社内の喫茶コーナーみたいな所へ行った。そして二人共ホットのカフェラテを買い、丸テーブルを挟んで向かい合わせに座った。

 宏美さんはテーブルの上にノートを広げたが、おそらくそれはフリをしているだけだろうと思った。

 俺は、敢えて宏美さんと視線を合わせないようにし、

「確認したい所は、どこですか?」

 と聞くと、案の定、宏美さんは、

「あれは嘘。俊君と話がしたかったの」

 と言った。思った通りで、そんな宏美さんが可愛くて、つい笑ってしまったが、俺は心を鬼にし、

「田村さん、今はお互い仕事中ですから、そういう事は困ります」

 と、敢えて冷たい口調で言った。すると、

「それは分かってるけど、こんな風にしか会えないから……」

 宏美さんは蚊の鳴くような声で言い、実際に泣きそうな顔をした。
 はあー。泣きたいのは、俺だって同じですよ、宏美さん。

 やるせなくて、無造作にラテを飲んだら、

「アチッ」

 腹が立つほど熱かった。

「大丈夫? "熱いよ"って、言えば良かったね?」

「うん。あ、いや……」

 宏美さんから、まるでお姉さんみたいな優しい口調で言われ、俺は、宏美さんに甘えたいような、そんな気持ちになりかけてしまった。

 ラテはテイクアト出来るそうなので、俺はそれを持って立ち上がると、

「では、失礼します」

 と宏美さんに言った。このまま宏美さんといると、彼女への気持ちがどんどん膨れ上がり、辛くなるだけだから、早くそこから立ち去りたかったんだ。
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