一目惚れの彼女は人の妻
失意の後に〜宏美Side〜
 3回目の打ち合わせの日。終始俊君は下を向いたままで、私を見ようともしなかった。

 やはり俊君は怒ったんだと思う。私が彼の事を、痴漢だと思っていたから。あんな事、言わなければ良かった。でも、どうしても本人に確認したかったんだもん。

 怒ったなんて、そんな生易しいものではないかもしれない。きっと私は俊君に軽蔑され、嫌われたんだと思う。

 人目が無ければ、大声で泣きたい気持ちだけど、もちろんそういう訳には行かず、私は涙を堪えながら、打ち合わせの長い長い時間をやり過ごした。

 打ち合わせのあった日は、どうしても仕事が溜まり、残業しなくてはいけなかった。それは篠崎課長も同じはずなのに、彼はさほど遅くならずに帰って行った。愛子ちゃんが待っているからだと思うけど、課長の処理能力を、私にも少し分けてほしい。なんて思った。

 会社を出て、地元の駅に着いたのは、かなり遅い時刻だった。駅前の繁華街を歩きながら、どこかに寄ってお酒を飲みたい気分だけど、一人ではつまらないし、心細いし、などと考えていたら、後ろから誰かに肩を触られてしまった。

 振り向けば、茶髪のチャライ男が、ニタニタした顔で私を見ていた。一瞬、誰かわからなかったけど、次の瞬間には思い出した。10年前に縁を切った、ダメダメ男の元カレだという事を。
 
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