一目惚れの彼女は人の妻
「すみませんが、駅に着くまでは黙っていてください」

「う、うん。わかった」

 やっぱり俊君は怒ってるんだ。まだ、私の事を。
 ”話したい事がある”ってメールに書いてあったと思うけど、どんな話なんだろう。きっと、私には辛い話なんだろうな。

 居たたまれないような沈黙の中、やっと電車は地元の駅に着いた。

「どこか、居酒屋さんとかに行く?」

 駅を出て、私は精いっぱいの明るい声で言ったのだけど、

「昨日の店ですか?」

 と俊君は言った。でも、昨日の店ってどういう意味だろう。昨日、私はダメ男の元カレと居酒屋へ行ったのだけど……

 え? 俊君はそれを言ってるの? 俊君に見られてたの?

 そんな疑問を聞けないまま、私は無言の俊君に腕を引かれた。そして着いたのは、あの夜と同じ、公園だった。

 たぶんプラタナスだと思うけど、太い樹の前まで俊君に引かれて行き、立ち止まると、俊君は上着の胸ポケットから、黒いスマホを取り出した。そして、何かの操作をしたかと思うと、パッと私の顔の前にそれを突き出した。

 俊君のスマホには何かの画像が表示されていて、それに目の焦点を合わせたら……

 私だった。昨日、薄暗い居酒屋で、ダメ男の元カレと向かい合わせに座った、私の画像が写っていた。
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