一目惚れの彼女は人の妻
 今度こそ俊君に怒られると思い、私は体を固くしたのだけど……

「きゃっ」

 俊君に、ギューッと抱き締められてしまった。

「怒らないの?」

「怒るところかもしれないけど、嬉しさの方が勝っちゃって……」

「ああ、俊君。大好き」

「俺も、宏美さんの事、大大、大好きだ」

 私は俊君に、篠崎課長は義理の兄で、姉は病気で亡くなり、愛子ちゃんは私の姪である事を話した。あの時は俊君を痴漢だと思ってたから、それで夫婦のフリをしたのだとも。

「そうなんだあ。あ、あいつは? 昨日の男は何なんだよ?」

「10年前に別れた、元カレ」

「まさか、寄りを戻すとか!?」

「ううん。昨日はたまたま遭っちゃって、相談があるとか言われて、少し話しただけなの」

「じゃあ、コレは?」

「ひゃっ」

 いきなり俊君に、左の胸をムズッと掴まれてしまった。

「触られてたよね?」

「もうー、画像をよく見てよ。触られる寸前に、手を払ったんだからね」

「ほんとに?」

「本当よ? 私に触っていいのは、俊君だけだから……」

「宏美さんは、俺のもの。って事でいいのかな?」

「うん、いいよ」

 幸せ絶頂の最中、どこからか”きゅるきゅる”という、変な音が聞こえた。
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