一目惚れの彼女は人の妻
「母さん。こちらは田村宏美さん。俺の彼女」

 おふくろは、更に目を丸くして驚いている。”俺の彼女”の部分に反応してだと思うが。

「はじめまして。突然おじゃましてすみません」

「こちらこそ、はじめまして。もう、俊ったら、前もって言ってくれないと……」

「急に決まったんだから仕方ないだろ? ピラ男を見に来ただけだからさ、全然構わないでくれる?」

「それはいいけど……」

「2階なんだ。行こうか?」

 と、階段を上がりかけたのだが、ふと思い、

「恵美は帰ってる?」

 とおふくろに聞いた。あいつがいたら面倒だから、出来ればいないといいなと思って。

「まだよ。今夜も支店長さんの歓迎会だって。歓迎会って、続けてするものなの?」

「あ……銀行はそれが普通らしいよ。よく知らないけど」

「そうなんだ……」

 ちぇっ。恵美のやつ、もう少し上手い嘘を付けっつーの。
 しかしこれは、チャンスかもしれない!

 俺は宏美の背中を押しつつ、

「お茶とか、いらないから」

 と、おふくろに念を押すのだった。
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