そして私は行間の貴方に恋をした
振り返る俺と華月。

そこには、10年の月日などなかったかのような、変わらず美しい姿があった。

「・・・」

言葉を忘れた華月と、見惚れる俺と、微笑む彼女の視線が交錯する。

「それなら私も言わせてもらうけど、あの時の私にはああする事しか出来なかったんだよ」

あまりに変わらない姿と立ち振る舞いは、いっそ幻のだと言われた方が納得がいく。だが、それはすぐに否定された。

「あ・・なた・・・」

華月は漏らしたその声は悲鳴かあるいは嗚咽にも似ていた。

「そう言えば自己紹介まだだったね。私の名前は橘陽子、よろしく」

名前を聞いた途端、一気に頭が冷静さを取り戻す。そして、自分の中で確かな一つの意志が芽生えた。

「俺は山田太郎」

「知ってる」

「それで、聞かせてくれるんですよね?ああするしかなかったその理由」




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