そして私は行間の貴方に恋をした
耳に届く程の音もなく茎は折れた。

「これが、今、俺が貴女に、陽子さんに出来る返事です」

俺の手から綿毛を受け取った陽子は、ほんの少しだけ残念そうに目を細めた。

「あ〜あ・・振られちゃったか・・」

それからキスでもするかの様に唇をすぼめて綿毛に息を吹きかけた。綿毛が風に舞って散らばって行く。

そのひとつひとつの種は、また何処かで黄色い花を咲かせるのだろう。

「さよなら、少年」

多分もう2度と見ることはない背中は、やはり10年前のあの日と同じ背中だった。違っているのは背中ではなく、それを見送る俺の気持ち。

こじらせ続けた俺の恋は綿毛と共に風に舞って行った。

俺はノートにペンを走らせる。

たった1人に向けてペンを走らせる。

ノートの上を踊るように、跳ねるようにペンは走る。



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