実話怪談「鳴いた猫」
墓地に入ると、大人二人が横に並んで歩ける程の道が闇のなかまで続いていた。その先では道がいくつも分かれている。目の前の道を挟むような形で無数の黒と白の墓石が暗闇のなかで整然と立ち並んでいるのが薄ぼんやりと見える。一瞬、それが人影のように見えて、Kさんはぎょっとした。彼を嗤うように、山の樹木が葉擦れの音を鳴らす。
彼の想像の世界だけにその姿を現す存在が、いつも以上に神経を過敏にさせていた。どこかで聞いた怪談や怪異な噂を思い出し、それらがまた恐怖感を煽った。
奥に行けば行くほど闇は濃くなり、油断すれば前を歩く猫も闇に呑まれ、その姿を見失いかねない。当の猫は変わらず、Kさんの方を気にしながらも歩き続けている。冷たい空気が漂う夜暗のなかでその目が緑色の妖しい光を放つ。
中程を過ぎた時だった。突然、Kさんは立ち止まると何かにひどく驚いた様子で、慌てて右の方を見た。そこには暗闇のなかに墓石があるだけで他には何もない。それを確認すると、Kさんはほっと胸を撫で下ろした。
この時のことを「なんか線香臭いなって思ったら視界の右端に誰か、人が立っているように見えたんです。まぁ、すぐに気のせいだと分かったんですが」と、Kさんはいう。
視線を戻すと、さっきまで前を歩いていたはずの猫の姿がどこにもない。耳を澄ましてみても、鳴き声ひとつ聞こえない。
まだそんなに遠くには行ってない確信はあった。Kさんは真っ直ぐ、道なりに進んでみることにした。万が一にも驚かせて、また見失うようなことのないよう周囲に気を配りながら慎重に、ゆっくりと歩を進める。
しばらく歩いていると、道がT字路のように分かれているのが見えた。道自体は先程までのそれより少しだけ広く、その向こうでは樹木が不気味なほど静かに佇んでいる。その手前まで行くと立ち止まり、左右を確認した。しかし、立ち込める暗闇がそれを阻んで道の先がよく見えない。
どっちに行こうか迷っていると、左の方から「にゃあ~」という大きな鳴き声が聞こえた。あの猫の鳴き声だった。その声を頼りに、Kさんはまた歩き出した。
彼の想像の世界だけにその姿を現す存在が、いつも以上に神経を過敏にさせていた。どこかで聞いた怪談や怪異な噂を思い出し、それらがまた恐怖感を煽った。
奥に行けば行くほど闇は濃くなり、油断すれば前を歩く猫も闇に呑まれ、その姿を見失いかねない。当の猫は変わらず、Kさんの方を気にしながらも歩き続けている。冷たい空気が漂う夜暗のなかでその目が緑色の妖しい光を放つ。
中程を過ぎた時だった。突然、Kさんは立ち止まると何かにひどく驚いた様子で、慌てて右の方を見た。そこには暗闇のなかに墓石があるだけで他には何もない。それを確認すると、Kさんはほっと胸を撫で下ろした。
この時のことを「なんか線香臭いなって思ったら視界の右端に誰か、人が立っているように見えたんです。まぁ、すぐに気のせいだと分かったんですが」と、Kさんはいう。
視線を戻すと、さっきまで前を歩いていたはずの猫の姿がどこにもない。耳を澄ましてみても、鳴き声ひとつ聞こえない。
まだそんなに遠くには行ってない確信はあった。Kさんは真っ直ぐ、道なりに進んでみることにした。万が一にも驚かせて、また見失うようなことのないよう周囲に気を配りながら慎重に、ゆっくりと歩を進める。
しばらく歩いていると、道がT字路のように分かれているのが見えた。道自体は先程までのそれより少しだけ広く、その向こうでは樹木が不気味なほど静かに佇んでいる。その手前まで行くと立ち止まり、左右を確認した。しかし、立ち込める暗闇がそれを阻んで道の先がよく見えない。
どっちに行こうか迷っていると、左の方から「にゃあ~」という大きな鳴き声が聞こえた。あの猫の鳴き声だった。その声を頼りに、Kさんはまた歩き出した。