オフィスの野獣
フラついた私の身体を支えて、西城斎が呆れたように笑った。
「あーもう。急にそんな大声出すから、安静にしてなきゃダメだろ。まだ熱あるんだから」
火照りのあるおでこに、彼の冷たい手があたる。一瞬はそれに気持ちよさを感じたけど、私からすぐに引き剥がした。
病人まで脱がすことはされなかったが、この男が自分の部屋にホイホイと女をあげる野蛮人であることに間違いはない。気安く触らせてたまるものか。
「まあ……元気で何よりだ。あと、お昼のことは怖がらせてごめんね。前野も藤下さんのことが気がかりで、やりすぎたところはあったけど、話せば悪い奴じゃないよ」
お昼の件を蒸し返されるが、この状況でそんな話題はどうでもいい。目の前にいる「彼」という脅威の方が問題視するべきことだ。
今すぐに彼の巣穴から出る方法を、こんな頭でも考えないと。どうして立て続けに西城斎と絡むことになってしまうのか、この身は呪われているのだろうか……。
「お腹空いてない?」
「……え?」
そう言われると、小さくお腹が鳴った。
素直な反応に、西城斎がくつくつと笑った。
「あれじゃお昼もロクに食べてないと思って、お粥作ったんだけど、食べられる?」
そんな心配までされているとは思わなくて、言葉に詰まった。お菓子の家の魔女でもあるまいし、お粥で釣るような真似ではないだろう。
私を彼から庇う布団をぎゅっと握りしめて、この身を案じてくれる彼に違う話題を切り出した。若干の気恥ずかしさと、声が震えた。
「や、やめてよ……あんなことしておいて、今更いい人ぶらないで。あんたは私にとって、心底最低な奴よ。この期に及んでどうして優しくするの。どうして、あんなことしたの……」
勇気を振り絞って、そう言ってやった。
それは彼にも恐らく伝わったのだろう。自分の顔が赤くなるのを隠せなかった。
「……やっぱり憶えてないんだ。あの時のこと……」
今度は彼から視線を逸らした。何かを言いにくそうに。
雨が降った夜――その全貌を知る彼は、どうして今までそれを隠しているの。