オフィスの野獣
不本意だけど熱が冷めないうちは、彼の好意に甘えて部屋に一晩泊めさせてもらった。
別に彼の何でもないのに、こんなのいつもの私らしくないな。よりによって西城斎の部屋に泊めてもらうとは。
「困ったことがあったら、言ってね。こう見えて面倒見はいい方なんだ」
就寝前にひょっこり顔を出して、そんな気遣いを見せてくれた。風呂上がりなのか、スウェットに着替えてタオルを肩にかけていた。
「ねえ、西城……」
「どした?」
「西城のことは、これからもきっと変わらず大嫌いなままだと思う」
「う、うん……」
「でもあんたも人の子なんだね。お粥、ありがとう。おいしかったです」
なんだかんだ言って、病弱のところに面倒を見てもらったのは助かる。
誰かにご飯を作ってもらったのだって、久しぶりだった。
「あはは。それを言うなら藤下さんこそ、可愛いとこあるじゃん」
「……もう寝るからとっとと出ていって」
「へいへい」
下手な誤魔化しに頷いてドアを閉めようとした彼だけど、半分閉めたところで手を止めて、ドア越しにこんなことを言い残した。
「……藤下さんは、もう少し男に心開いてもいいと思うよ。そりゃ俺みたいなサイテーなのもいるけど、案外単純でいい奴ばっかだよ」
彼がドア越しにどんな表情をしていたのかはわからない。私も布団に潜って、彼の言葉を静かに聞いていた。
何も答えない私に諦めて、部屋の電気を消すとドアは音を立てずに閉ざされた。
たとえ優しくされても、彼のことはこれからも嫌いであり続ける。彼のことも、前野君のことも、男性という存在を、これからも受け入れられないでしょう。
熱にじわじわと冒されて、いつしかそのまま深い闇に落ちていった。