オフィスの野獣
それからめげずに前野君は私に新しい話題を振ってくる。前に言ってた通り、彼はこれで諦めるつもりはないらしい。
私はあの後熱を出して、それどころじゃなかったからな。お粥の味は、少しだけ恋しかった。
「藤下さんは、どんな奴が好みなの?」
唐突に質問された内容の意図がわからなくて、前野君に聞き返す。
「え?」
「どんな男がタイプなの? ほら、今まで付き合ってきた相手とか」
……そんなことを尋ねられても、お付き合いした経験などない。まともな恋愛もない。その質問には答えられそうにないと思う。
それなのに、あの野獣のような男に、記憶がない間に好きなようにさせてしまったなんて……。
「……ない」
「何、その間。納得いかないなあ。やっぱり藤下さんて、西城とデキてるの?」
前野君の突然の言いがかりに、最後の一切れを落としそうになった。危ない。
「な、なんでそうなるの?」
「そりゃあ、気になるでしょ。あの後二人で会社からいなくなるし。二人がいないところで噂になってるんだよ。ほんとのところはどうなの?」
「ち、違う。そんなんじゃない。あの後すぐに熱出したから、彼に少し面倒かけただけ。は、話したこともないし」
私のたどたどしい弁解に、前野君は遅れてスプーンを動かしながら「ふうん」と面白くなさそうに言った。私のメンタル弱い。