オフィスの野獣
「どうあれ、あいつには近づかない方がいい。もう何十人も泣かされてるようだから。藤下さんも遊ばれちゃうよ」
……知ってる。前野君に言われなくても。
本意ではなくても、私もきっと彼に弄ばれた女の一人と同じ。
綺麗事に流されて、彼に傷つけられたという事実は変わらないのに、はぐらかされている。
「じゃあ今度のデート、考えといて」
いつの間にか自分のカレーを食べ終えて、前野君が私にダメ押しの台詞を言った。
副菜の煮物を噛み締めながら、10回目になると前野君の誘いを断るのもなんだか億劫になってくる。
――藤下さんは、もう少し男に心開いてもいいと思うよ。
また傷つけられるのだろうか。
彼の綺麗事に。