オフィスの野獣
西城斎
私が知る限りの西城斎のプロフィールを話していこう。
それは私が会社で見かける彼の印象の一部と、主観で見たものではあるが。前言してある通り、私と彼の接点は同じ会社の同僚で同期の三点のみであり、業務で会話をすることもほとんどない。
西城斎は、言うなればモテる奴だろう。男女ともに、多弁で人懐っこい性格が一目置かれているが、彼の華のあるビジュアルに勝るものはない。雄雌問わず彼の蜜を求めて蜂が群がるのだ。
彼も生まれながらにそれを受け入れる術を身につけているのだろう。社会の目立たないポジションで傍観している私には、絶えられそうもない環境だ。その点では彼は人間がよくできていると思う。
しかし、人は甘やかされて育つと調子に乗るものだ。彼は男女ともに平等に優しいが、遊んでいるという噂も多い。実際に遊ばれた女の子が、彼と自ら距離を置くために会社を辞めたこともある。表面上では家庭の都合とされていたが。
そんな色恋の噂が絶えない相手――西城斎と、私は越えてはいけない一線の関係を持ってしまったのだろうか?
考えるだけでも吐き気がする。
それに、彼の色恋の噂はそんなもんじゃない。
私が一次会で帰ろうとした飲み会では、バッチリ化粧をした知り合いの男と出会い頭にチューして同僚の前でイチャイチャした挙句に、二人で夜の新宿に消えたことがある。彼の日頃の交友関係が疑われる。
またある日の社内の移動時間に、偶然通りがかった会議室で取引先の男の人に言い寄られている場面に遭遇したことがある。しかも向こうもノリノリだった。私はそっと現場を離れたので、その後は知らない。
西城斎は、私から見る限りではだらしない男だ。男女問わず人の身体を貪る。タチが悪い。
自分とは一線を引いた向こう側の人間だと思っていたのに、だからこれからも関係を持つことなどないと思っていたのに、そんな人物に標的にされてしまった?
会社に着いて通常の業務に戻ると、はっきりするべきことがまとまった。このまま黙っていられるわけがない。