オフィスの野獣
トースト、目玉焼き、ウインナー、スープなど二人分の食事を用意して、二人でテーブルを囲んでひとまず遅い朝食にした。時計の針はもう10時を指している。
一人じゃここまで作らないけど、おいしく作れただろうか。誰かと家でご飯を食べるなんて久しぶりだから、落ち着かない。
まだ眠そうだけどおとなしく食べてくれる西城斎に、なんとなく話しかける。
「それにしてもいいところに住んでるのね。うちの会社の給料じゃとても借りられそうにないけど」
都心にアクセスがいい高層マンションの広い1LDK。
築30年の畳のアパートの貸家とはえらい違いだ。うちの会社はそこまで給料いいわけじゃない。
「親父のなんだよ、ここ。不動産やってて、儲かってるみたいだから息子の俺に分け与えてくれたってわけ」
「じゃあどうして今の会社に?」
「俺は次男坊だから、会社は兄貴が継ぐだろうし、そんな器でもないし。気楽なサラリーマンやってる方が俺には向いてる」
つまんなそうに実家の話しをしながら、トーストを齧る。次男というだけで自由に生きられる彼が羨ましく思う。
「いいご身分ね」
「どうかな。家じゃ変人扱いだし、自由にさせてもらってるのも向こうが避けてるっていうのもあるし。疎まれてるんだよ」
けれど、私が思うより彼は肩身の狭い生き方をしてきたのかもしれない。
隣の芝生は青いと言う。表面上の彼だけを見て、判断していたかもしれない。
「だから自分より貧しい奴を哀れんだりなんかしない。むしろ、自分みたいな奴がいたらほっとけなくなって、不満まみれの自分達を慰め合うようにぐちゃぐちゃにしたくなる」
そんな過激なことを口にしながら、満たされない目を伏せている。そうやって誰かを求めて自分を慰めて来たのだろう。
私にはできないやり方だけど、彼の気持ちは少しわかる気がした。それなのに彼のやり方を一方的に否定して、きっと彼を傷つけてしまった。