オフィスの野獣
いきなり何を言い出すかと思えば、また人のことをからかっているのか?
朝から考えが読めないこの男の顔を凝視して、透けて見えないか試行錯誤したが結局無駄だった。
「どうしてそういうことになるのよ」
「そういう空気じゃなかった?」
「全然」
私がはっきり答えると、そいつがすっとぼける。またいつもの軽口で寝ぼけていただけか。
だけど、西城斎はここで引き下がらない。その話を切り上げようとする私を制し、しっかりとこちらの目線を捉えていた。
「まあ前野が無理なら、俺が色々と教えてあげられるし、慣れの練習相手にはもってこいでしょ」
「そ、それはそうかもしれないけど、あんたにそこまでしてもらう義理なんてないし……」
「ここまで来たら、付き合うよ。別に俺は嫌じゃないし。洗濯物が乾くまで特にやることもないし」
「で、でも、一回と付き合うじゃ、全然わけが違うわよ。あんたは、それでいいの?」
きっと、女には困らない彼。
身体の関係は彼にとってお遊び。だから今回のことは彼にもそれなりの責任があるし、甘んじてそれを彼は受け入れた。
だけど恋人の関係になるほど、私は彼を責めるつもりはなかったし、私はそこまで望んではいなかった。
「俺が美弥子を求めてるって言ったら、困る?」
また悪戯に目を細めて、まるで私をからかうように彼が笑う。