オフィスの野獣

 いきなり何を言い出すかと思えば、また人のことをからかっているのか?

 朝から考えが読めないこの男の顔を凝視して、透けて見えないか試行錯誤したが結局無駄だった。


「どうしてそういうことになるのよ」

「そういう空気じゃなかった?」

「全然」


 私がはっきり答えると、そいつがすっとぼける。またいつもの軽口で寝ぼけていただけか。

 だけど、西城斎はここで引き下がらない。その話を切り上げようとする私を制し、しっかりとこちらの目線を捉えていた。


「まあ前野が無理なら、俺が色々と教えてあげられるし、慣れの練習相手にはもってこいでしょ」

「そ、それはそうかもしれないけど、あんたにそこまでしてもらう義理なんてないし……」

「ここまで来たら、付き合うよ。別に俺は嫌じゃないし。洗濯物が乾くまで特にやることもないし」

「で、でも、一回と付き合うじゃ、全然わけが違うわよ。あんたは、それでいいの?」



 きっと、女には困らない彼。
 身体の関係は彼にとってお遊び。だから今回のことは彼にもそれなりの責任があるし、甘んじてそれを彼は受け入れた。
 だけど恋人の関係になるほど、私は彼を責めるつもりはなかったし、私はそこまで望んではいなかった。


「俺が美弥子を求めてるって言ったら、困る?」



 また悪戯に目を細めて、まるで私をからかうように彼が笑う。

< 33 / 50 >

この作品をシェア

pagetop