オフィスの野獣
彼の部屋でタオルを借りた。
私を庇ってくれた彼も、シャツが肌に引っ付くほどびしょ濡れだった。
また彼を巻き込んでその背中にかける言葉がないと、向こうが気を遣ってカラ元気に言った。
「雨ばっかりだね」
ここに来る時は、いつも生憎の天気。
いつも彼が気を遣って、そんな慰めをかけてくれる。
まだどんな顔をしてあなたを見たらいいかわからない。
「……どうしてあの場所がわかったの」
「あー。実はあの鍵にGPSが仕込んであるんだけど」
言いにくそうにそんなことを口にした。あまりの事実に思わず我が身を抱きしめる。
「違う違う。俺じゃなくて、落とした時用に付いてるやつ。だって本当のこと言ったら嫌がるでしょ?」
当たり前だろ。モテるからって許されると思うなよ。
事情を知っていた彼なりに、あれからも私のことを心配してくれたのだろう。それでも複雑な気分だ。
彼がそうやって心配してくれなければ、自分が今頃どうなっていたかと思うと、そいつの図々しさを無闇に責める気にはなれない。
「こんな日に限って寄り道してるようだったから、なんとなく気になって。でも、間に合ってよかった」
自分で身体を拭く気力がない私の手からタオルを奪って、それを頭に被せる。
タオルからほのかに香る柔軟剤や、包み込んでくれる彼の手は、やっぱりこの貧しい心に優しさを染み込ませてくれる。もっと触れていたい……なんて思う。