オフィスの野獣

 俺が君を見つけたのは、偶然だった。




 ――もうここには来ないで。あんたの気持ちにはどうやったって応えてやれないから。



 最悪だな。結構本気だったんだよ。
 慧ちゃんのお店に足しげく通いながら、ゆっくり時間をかけて、いつか落としてみせたかったんだけどな。ゆっくり時間をかけたけど、人の心はどうにもならないことがある。



 ――斎。あんたはもっと幸せになるべきよ。



 君がそれを言うのかい?

 幸せなんか、どうでもいいよ。
 慰めるくらいなら、我儘聞いてよ。


 それでも君は、大事なものだけは手放さないんだね。




 店を出ると、生憎の雨だ。
 朝から降り続く雨。呆れながらビニール傘を差して歩き出す。

 何のために口実まで作ってアプローチしたんだよ。ほんとは甘いものはあまり好きじゃないんだ。


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