オフィスの野獣
俺は君が思うようなキレイな奴じゃないし、全然いい奴なんかじゃない。クズみたいな奴だよ。
だけどこんなクズでも君が求めてくれるなら、俺も少しはまともになろうかな。
好きな娘にクズって言われるのって、結構傷つくから。
その娘の頭を拭いてあげながら、よそ見をしていた俺に背を伸ばして、おもむろに彼女からキスされた。
あまりに突然のことだから、俺が固まって反応しないと下から不安そうにする彼女と目が合った。
「……嫌だった?」
控えめに問いかける彼女に、こっちが赤面したくなるほど萌えた。何この可愛い生き物。
こんな反応されたことなかったから、いい歳して戸惑った。やばい。俺も顔真っ赤かも。
「……んなわけないじゃん」
影を作るようにタオルで彼女の顔を包み込んでやり返した。重なる彼女の手が温かいと感じた。
こんなクズでも求めてくれる彼女が愛おしくて堪らなかった。
「……ごめん。手加減できないかも」
彼女の髪に染み込んだ雨のにおい。
遠くではまだ雨の音がしている。
お互いの悲しい雨の記憶が、二人の思い出になるように、それを願いながらまたひとつキスを重ねた。