オフィスの野獣

 時刻は正午を回った。
 私は上司の気まぐれで、一人物置部屋と化した資料室の掃除をしている。あのクソが。
 まさか上司に向かってクソなんて言えるはずもなく、それこそ明日世界が終わるとでも言われないと歯向かう気など起こらない。
 なんで私だけに振るんだよこんな罰仕事。あー、クソが。


 半時間近くそんな毒を撒き散らしながら、一人黙々と作業を続けていた。事務機材の他に使い道がよくわからないガラクタが色々ある。
 埃臭いし、重い物は腰にくる。私ももう27歳だぞ。少しでも労われよ。



「藤下さん」


 あまり広いとは言えない資料室のひとつだけある扉が、軋んだ音を立てて開く。
 そこには普段あまり会話のない男性社員の姿がある。業務以外ではまったく男と話をしないので、咄嗟に名前が出てこない。えーと。


「……あ、前野君?」


 自信がないから疑問形になってしまった。
 相手はそれに人当たりのいいにこやかな表情で返してくれた。彼が、こんな人の寄りつかない部屋に態々何の用事だろう?

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