見上げる空は、ただ蒼く
奏は俯いて声を震わせた。
お互いの気持ちが落ち着いたところで
私たちはどちらからともなく
手を繋いで家路をたどった。

私たちの住む一戸建ての家が見えて
きたそのとき、奏が突然立ち止まった。

「嘘、だろ......?」

その顔は真っ青で、私は咄嗟に奏を
自分の背中に庇うように立った。

奏が見ていた方向に目をやると、
うちの家の玄関で紗綾さんと
中年の男性が話している。

誰だろう、あの男の人。

紗綾さんは困った様子で首を横に
振っているけれど、男性はなかなか
引かないみたいだ。

私は奏の手をしっかりと握ったまま
玄関に近づいていった。

「紗綾さん、ただいまです。」

「おかえり、結乃ちゃん。あのね...」

紗綾さんが何かを話そうとしたとき
奏が男性に向かって大声をあげた。

「今さら何しに来てんだよ、父さん。」

え......奏のお父さん?

私は驚きを隠せなかった。
奏のお母さんは病気で亡くなったと
聞いていたけれど、お父さんが
どうしているのかは知らなかったから。

私は勝手に自分の家と同じように
離婚しているんだとばかり考えていた。
奏のお父さんは奏を見ると、
かけていたサングラスを外して
にやりと笑った。

「ちょうどお前を探してたんだ。」

「帰れよ!」

青い顔をして叫んだ奏を完全に無視して
奏のお父さんは驚きの1言を言った。

「奏、フランス行くぞ。」

一瞬、その場が時が
止まったように静まり返った。
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