見上げる空は、ただ蒼く
沈黙を破ったのは、紗綾さん。

「奏は、今はうちの家の子です!
いくら貴方が奏の元父親だったと
しても私たちは奏を渡しませんので。
お引き取り願えますか。」

冷静な言葉に彼は鬱陶しいとばかりに
眉をひそめるだけで一向に帰る気配も
発言を取り消す様子も無かった。

私はしっかりと握ったままの奏の手が
怒りと哀しみで震えているのを感じた。
奏を、助けなきゃ。

「奏の気持ちはどうなるんですか。」

気付けばそう口走っていた。
奏の気持ちはどうなるの。

「奏がもし行きたいと思うのなら
行けばいいと思うし、行きたくないと
思うのなら行かなければいい。
私はそう考えています。」

「ありがと...う.........。」

奏の肩の力が抜けていくのが分かる。
とにかく今は奏を守りたかった。
彼は私を鋭い視線で睨み付けた。

「お前、誰?奏のこといろいろ言って
いい立場?んなわけねぇだろ。ガキが
知ったような口聞くんじゃねぇ。
ふざけんな。」

突然、身体に衝撃が走ってそのあと
左半身に鈍い痛みを覚えた。
身体が地面に叩きつけられて、
思うように動かなくなる。

「結乃......大丈夫かっ?!
ざけんな!お前は俺の父親なんか
じゃない。母さんを追い詰めた父親
なんか俺は認めない。」

奏がお父さんに詰め寄って首元を
掴んでいるのがぼんやりと目に映る。

「......チッ。奏、また来るからな。」

お父さんが踵を返して去っていく。

「もう2度と俺のところに来んな!
結乃のこと少しでも傷つける奴を
俺は絶対に許さないから。」
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