見上げる空は、ただ蒼く
「カット。今のは良かった。
次は、シーン19いくよ。
3、2、はい。」

セリフを自分の中で反芻して、
目の前の愛しい人に届ける。

「ねぇ、愛しいロミオ。どうか
そのロミオという名前を捨てて
私をこの狭い狭い檻の外へと
連れ出してちょうだい。
貴方がロミオでなくたって、
その素晴らしさは変わらない。
薔薇の花は薔薇という名前でなくたって、
あの甘い香りは変わらないわ。」

「あぁ、愛しいジュリエット。もし
そう出来たのならばそれほど僕に
とって幸せなことはないでしょう。

もし名前を捨てられたなら僕は
すぐにでも貴女の元へ走るのに。」

2人の長いセリフが終わると、
ナレーターの子がシーンの締めと
なる文をすらすらと読んでいく。

「ジュリエットはベランダから、
ロミオは地面からお互いに
出来る限り手を伸ばしたが、
その手が触れあうことはなかった。
哀しみにくれる2人をおいて、
夜は静かに更けていった...。」
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