見上げる空は、ただ蒼く
「別に払わなくていいから。
今回は俺のおごり。でも、今度
お前のクッキー食いたい。」

この言葉も奏の優しさだ。
最近、私がお菓子を作る時間が
なかったのを見越して言ってくれて
いるんだろう。

「分かった。チョコレートでいい?」

「バニラがいい。」

奏は昔からバニラ味の食べ物が
大好きだった。

私と奏が初めて出会ったときも、
1人で泣いている私に差し出して
くれたのはバニラクッキーだったし。

「バニラ食うと、お前と会った時の
こと思い出すんだよな。」

突然にそう言われて、驚く。

「奏、私と初めて会った時のこと
まだ覚えてるの?」

もう、5年以上前のことなのに。

「当たり前だろ。一時期は一緒に
住んでた奴との出会いくらいは
覚えてるよ。」

奏はスポーツドリンクを煽りながら
どこか遠くを見るような仕草をする。
私たちの出会いはとても特別だ...。
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