千年愛歌

陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆえに 乱れそめにし われならなくに

十二月になると、俺たちの頭の中は冬休みのことでいっぱいになる。

冬休みまでの日にちを数え、何をしようかわくわくしながら計画をみんな立てるのだ。

冬休みまであと二週間という日、国語の先生がこんな宿題を出してきた。

「友達や家族、彼氏や彼女でもいい。自分の大切な人に百人一首の歌を一つ送れ。その人をイメージして送れよ〜」

そう言って先生は、歌を書く紙を一人一枚ずつ配った。

まあ、漢字のワークを五ページとか、竹取物語の冒頭部分をノートを写す、といった面倒なものではないことにホッとする。それは、かぐやさんを除いてクラス全員が思ったようで、みんなの表情も柔らかい。

大切な人……。俺の頭の中には、真っ先にかぐやさんが浮かんだ。

初めて話した日のことは、今でも覚えている。というか、かぐやさんとの思い出はきちんと残っている。

ふと、頭の中にある思い出が再生された。真っ青な顔をしているメガネの女の子を、俺が支えながらゆっくりと道を歩いている。

この記憶は、いつのものだっけ？あの女の子は誰だっけ？