千年愛歌
「はい、これでいい?」

かぐやさんが取りたがっている本に手を伸ばし、手に取った本をかぐやさんに渡す。

驚いている顔もきれいだ。その唇が、ゆっくりと動いた。

「めぐり逢ひて 見しやそれともわかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな」

俺は、かぐやさんの口からこぼれた言葉に驚く。かぐやさんの口から出てきたのは、百人一首の歌。たしかーーー。

「それって紫式部の歌?源氏物語を書いた人だっけ?」

源氏物語は読んだことはないけど、社会で習ったことのある人だ。

かぐやさんは、微笑み頷く。

「かるた部に入っているので、百人一首が自然と出てくるんです」

初めてかぐやさんと話した!俺の心の中で嬉しさが募る。関わることがない人と関われるなんて!

「う〜ん…百人一首なら、正月に親戚と集まった時にしかしないなぁ…」

覚えている歌を必死に思い出す。どれほど考えていたのかなんてわからないけど、かぐやさんはずっと待ってくれた。

そして、口を開く。
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