先輩と二人だけのあまい時間
『気づいてましたよ。
私がレッスン室に入った時にはもうそこに座ってて、私がショートに向かう時にはもう居なくなってる先輩に。
毎朝、先輩がいるかどうか見るのが私の日課でしたよ。』



そう言って、顔を上げてニコリと笑った。
きっと私の事、見えてないんだろうけれど。



視界の隅で、座ってる先輩が驚いた顔をしてる。



「綾仁は、‘ 彼女には、目見えないこと知られたくない’って言って、そこの角からベンチまでは1人で行くようになった。毎日、毎日。
あんたの演奏を聞くために。」



先輩は、あそこでいつも私を“見てた”んだ。
暑い日も、寒い日も。



『・・・』



「・・・」



「・・・」



レッスン室に静寂に包まれる。
隣の部屋から、楽器の音が漏れて聞こえる。



聞こえるのはそれくらい。



「そんじゃ、あとは2人で。
綾仁、教室いるから。」
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