Reality~偽りの歌姫~《完》
数日後、桜井社長から直々(じきじき)に呼び出しがかかった。

用件はだいたい見当がつく。

よほどのことがない限り、タレントが社長室に呼ばれることはない。



分厚い木製のドアをノックする。

「失礼します」



それまで書類に目を通していた社長が、ペンを置いた。

「悪いわね、忙しい時に呼び出して……」

日本人形のようにまっすぐな黒髪を耳にかけ、主張が強い眼鏡越しに鋭い視線を俺に向けた。



うちの事務所は、 創業者であるこの女社長のワンマン経営だ。

いつもは上からしか物を言わない女社長が珍しく下手に出てきた。

嫌な予感がする。
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