バレンタイン・ストーリーズ
だから私は、明日のきみを描く
『だから私は、明日のきみを描く』後日談

本編↓
https://www.no-ichigo.jp/read/book/book_id/1368203



どうしよう。どうしよう。どうしよう。
三十分前から、私の頭の中はそんな考えでいっぱいだった。

隣を歩く彼方くんにちらりと目を向けると、すぐに気づいてにこりと笑みを返してくれる。

「どうした? 遠子」
「あっ、ううん、なんでもない……」
「そう?」

彼方くんは小さく首を傾げてから、前に向き直った。

ああ、やっぱり、かっこいい……。
付き合い始めてもう五ヶ月が経つのに、ほとんど毎日一緒に帰っているのに、いまだに彼が私の隣にいてくれるという現実に慣れない。
目が合うたびに、どうしようもなく鼓動が高鳴る。

ぎゅっと握りしめた鞄の中には、バレンタインのチョコレートが入っていた。
昨日の夜、遅くまでかけて作ったチョコレートクッキーだ。

彼に何かあげるのは初めてではない。調理実習で作ったものをあげたことがあった。
それに、クリスマスだってプレゼントの交換をした。

でも、バレンタインのチョコを男の子にあげるのは初めてで、どんな顔をして、何を言って渡せばいいのかわからない。
そもそも、鞄から取り出すタイミングもわからない。
みんなどうやって渡してるんだろう。

思えば、調理実習で作ったものをあげたときは親友の遥がきっかけを作ってくれたし、クリスマスのプレゼントは彼方くんから先に話を出してくれた。
だから、私は自分から彼に何かを渡したことがないのだ。

でも、ぼやぼやしてたら駅に着いてしまう。そうしたらもう明日まで会えない。バレンタインが終わってしまう。

早く渡さなきゃ。
でも、どのタイミングで? 別れ際? でも電車の時間もあるし、のんびりしていられない……。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。

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