バレンタイン・ストーリーズ
何度目かもわからない考えにふけっていたとき、突然、隣で「あははっ」と彼方くんが笑い声をあげた。
私は驚いて目を上げる。

「えっ、え? 彼方くん……?」
「いや、ごめん、おかしくて……」
「な、何が?」
「いや……」

彼方くんが口許を手で押さえながら、おかしそうに私を覗きこんできた。

「あのさ、遠子……」

それから彼の視線がちらりと落ちる。その先には、私の鞄。

「……俺ずっと待ってるんだけど、チョコ」

かあっと頬が熱くなった。
彼方くんが少し照れたように微笑みながら私を見ている。

「遠子のことだから、きっとちゃんと持ってきてくれてるだろ? でも、出すタイミングが分からなくて……って感じ?」

私は口をぱくぱくさせながら彼を見上げて、それから小さく頷いた。

「うん……ごめん……いつ渡せばいいか迷ってたら、こんなことに……」

自分の情けなさに呆れながら呟くと、彼方くんはにこっと笑って言った。

「そういうとこ、ほんと可愛い」
「………っ!?」

私は声も出せずに、茹でダコみたいになっているであろう顔を両手で覆った。

「いつくれるかな~ってずっとどきどきしてたんだけど、遠子の顔見たら、明らかに俺の千倍くらいどきどきしてそうだったから、もう待ちきれなくなって自分からアピールしちゃった。ごめんな?」

彼方くんは笑いをこらえられないような表情で、優しげに目を細めて私を覗きこんでくる。
私はしどろもどろになりながら頷くことしかできない。

「あ……う……うん……」

恥ずかしすぎて心臓が爆発しそうだったので、気持ちを落ち着けるために下を向き、鞄を開ける。

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