バレンタイン・ストーリーズ
取り出したのは、バレンタインチョコの包み。
晴れた空のような綺麗な水色の包装紙に、雲のような白のリボンを結びつけた。
空を舞うように跳ぶ彼方くんをイメージして選んだラッピングだった。

中の箱には、手作りのトリュフが入っている。
前に作ってお父さんに美味しいと言ってもらえたから、これにした。
いちばん上手く作れそうなものを、彼方くんにあげたかった。

味見もしたし、ちゃんと美味しい、はず、だ。と思う。
でも、彼方くんの口に合うか不安だった。

美味しくないとか好みじゃないと思われたらどうしよう。
お菓子もまともに作れない女の子と思われて嫌われちゃったりして……。

不安に襲われながら差し出すと、彼方くんは晴れ渡る青空に浮かぶ太陽のような笑顔で受け取ってくれた。

「ありがとう! めっちゃ嬉しい! 昨日からずっとそわそわしながら待ってたんだー」

そんなことを素直に言ってしまえるのが、彼方くんのすごいところだと思う。
変にかっこつけたりとか、自分の気持ちを隠したりしないのだ。
素敵だな、と思って、そんな彼が自分と付き合ってくれているという事実に震えそうになる。

「あの、口に合うか分からないけど……」
「何言ってんの! 遠子が作ってくれたんだから美味しいに決まってんじゃん。俺が今いちばん欲しいものだよ」

にこにこと笑いながら、彼方くんが私の頭にぽんっと手をのせた。
嬉しすぎて、恥ずかしすぎて、どうにかなりそうだ。

「せっかくだから、今食べてもいい?」

訊かれて私は頷いた。
彼方くんはにっこりと笑ってから、私の手を引いて近くの公園に入り、ベンチに腰かけた。

肩を並べて座れるだけでも、いまだにこんなに嬉しいなんて、と少し自分に呆れる。
でも、恋愛未経験の私にとっては、彼方くんとの全てが初めての連続で、どきどきしっぱなしなのだ。

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