シュガーレス
第7話 心地いい距離感
 翌日、昼休憩直前に事務所入口横の応接室に課長に呼び出され資料の整理と製本を命じられた。テーブルの上に大量に置かれた資料。今日は午後から定時まで応接室にこもりっきりになりそうだ。
「ここにいたか」
 現れたのは堤さんだった。部長レビューを週末に控えた例の企画の件で話があるとのことだったけど、今日中にここにある資料をまとめなくてはならないと説明するとすぐに理解をしてくれた。
 背を向けて早速作業に入るが、なかなか立ち去ろうとする気配がしない。
「まだ何か?」
 近づいてくる気配を感じながら作業を続ける。小声で「昨日、どこにいた?」と問いかけられ、答えより何より、ここで普通に話しかけてくるのはやめてほしいという思いが先。
「家にいましたけど」
 目も合わせずそう答えると「ふーん」と何か含みのある返事。曖昧な態度に苛立たしさを感じた。
「そっちこそ、昨日は楽しかったですか?」
 言ってしまった後に後悔。私には何も関係のないこと。どこで何をしていようが互いに勝手だ。でも、向こうが先に聞いてきたから……
「まぁね」
 はっきりしない返答にまた苛立たしさを感じる。「なんで目合わせねぇの?」の言葉に大げさに顔を背けた。
「ごめんなさい、今忙しいんです。話なら後にしてください」
 背を向けようとすると腕を引かれる。
「ちょ、やめ……」
「今夜、久々に会いに行くよ」
 耳元で静かにささやかれすぐに腕を離され距離を取る。
「じゃ、がんばって」
 立ち去る堤さんの背を見つめる。
 いつもこっちの都合なんて関係なく訪ねてくるのに。待ってなきゃいけないみたいじゃん。留守にしようにも予定もなにもない。無理やり予定を作ることも日頃から人づきあいの少ない私には難しい。
 ……社外で会うのはいつぶりだろうか。久々かも。
< 19 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop