シュガーレス
連休に入り年が明けた。
仁科さんとは連休中にも何度か近所で顔を合わせ、新年初日の出勤では昼に例の喫茶店で顔を合わせた。「相席いいですか?」の彼の問いかけに首を縦に振る。
それからは頻繁に顔を合わせるようになった。毎日ランチ抜きはキツイから、会社でコンビニで買った簡単な食事を済ませ喫茶店へ向かう。仁科さんはいつもそうらしい。食後にいつも会社下の喫茶店で一服しているのだとか。
交わす会話は相変わらず誰とでもできる世間話程度のもので、一緒にいるのに互いに本を読んだり雑誌を読んだりして無言の時間の方が長い気もするけど不思議と居心地は悪くない。
内容の薄い会話の中で彼の年齢を聞き出すことは出来た。なんと同い年だった。同年だと分かると互いに自然と敬語はなくなってそれからは少しずつ互いに自分のことを話すようになっていったように思う。
「へぇ、顔を合わせるたびに」
「そうなの。イベントがあるたびに顔を合わせてはどうするんですか? って。だから毎回彼氏いないって言ってんじゃん! ……みたいな」
例の堤さんに気があって何かと私につっかかってくる後輩の愚痴。結局クリスマスはどうだったのか知らないけど、継続して彼女は堤さんを狙っている。……私を勝手にライバル視してくるのは彼女だけじゃないけどさ。
今度は来月に迫ったバレンタインだって。勝手にやってちょうだいって感じだよ。他に誰も愚痴を言える相手がいないため日頃の鬱憤を仁科さんにぶつけていた。
「でもたぶん。それが普通の二十代の女の子の反応……」
「私も二十代なんですけど」
「怒らないでよ」
仁科さんはふっと俯き気味に微笑むと「ごめんね」と言った。自然と小さな溜息が出た。
「分かってるの。自分が冷めきってるって言うのは。でも別にそれが悪いとは思わないし……」
「前に言ってなかったっけ。普通に恋がしたくなったとか」
「……あぁ」
「その思いがあるだけで十分……」
「無理だよ」
「え?」
今の私に恋をする資格なんてないもの。堤さんとの今の関係を絶ってまで向かいたい恋もない。あの時は昔を思い出して一瞬普通に恋がしたいとか思ったけど、今は特にそうは思わないし。
仁科さんは私の「無理だよ」の言葉に深く追求することはせず「そっか」と一言だけ告げると、私の反応を伺うようにして話題を変えた。うん、助かる。
「お正月は何をしてた?」
「ずっと、家にいたよ」
「実家に帰ったりは?」
「うん、しない。ずっと家にいた」
せっかく話題を変えてくれたのに、またあまり触れられたくない話題に。自分で言うのもなんだけど、私と会話をするの面倒だろうな。
申し訳ないと思いつつも、今理由を話す気にもなれない。話されても困ると思うし。今度は私が話題を変えようとすると先に仁科さんが口を開いた。
「そっか。僕も同じ」
「え……?」
「親が再婚同士で。なんとなく、居心地が悪い」
同じだ。
そうひと言口にするのは簡単なのに、言えなかった。「そうですか」と答えれば彼もそれ以上話す気はないのだろう、口を閉ざした。
打ち解けたようでまだどこか打ち解けきれていない。距離が近づいているようでまだどこか見えない壁を作る。それが私たちの今の距離感。でも、この距離感が今はとても心地いいから。
仁科さんとは連休中にも何度か近所で顔を合わせ、新年初日の出勤では昼に例の喫茶店で顔を合わせた。「相席いいですか?」の彼の問いかけに首を縦に振る。
それからは頻繁に顔を合わせるようになった。毎日ランチ抜きはキツイから、会社でコンビニで買った簡単な食事を済ませ喫茶店へ向かう。仁科さんはいつもそうらしい。食後にいつも会社下の喫茶店で一服しているのだとか。
交わす会話は相変わらず誰とでもできる世間話程度のもので、一緒にいるのに互いに本を読んだり雑誌を読んだりして無言の時間の方が長い気もするけど不思議と居心地は悪くない。
内容の薄い会話の中で彼の年齢を聞き出すことは出来た。なんと同い年だった。同年だと分かると互いに自然と敬語はなくなってそれからは少しずつ互いに自分のことを話すようになっていったように思う。
「へぇ、顔を合わせるたびに」
「そうなの。イベントがあるたびに顔を合わせてはどうするんですか? って。だから毎回彼氏いないって言ってんじゃん! ……みたいな」
例の堤さんに気があって何かと私につっかかってくる後輩の愚痴。結局クリスマスはどうだったのか知らないけど、継続して彼女は堤さんを狙っている。……私を勝手にライバル視してくるのは彼女だけじゃないけどさ。
今度は来月に迫ったバレンタインだって。勝手にやってちょうだいって感じだよ。他に誰も愚痴を言える相手がいないため日頃の鬱憤を仁科さんにぶつけていた。
「でもたぶん。それが普通の二十代の女の子の反応……」
「私も二十代なんですけど」
「怒らないでよ」
仁科さんはふっと俯き気味に微笑むと「ごめんね」と言った。自然と小さな溜息が出た。
「分かってるの。自分が冷めきってるって言うのは。でも別にそれが悪いとは思わないし……」
「前に言ってなかったっけ。普通に恋がしたくなったとか」
「……あぁ」
「その思いがあるだけで十分……」
「無理だよ」
「え?」
今の私に恋をする資格なんてないもの。堤さんとの今の関係を絶ってまで向かいたい恋もない。あの時は昔を思い出して一瞬普通に恋がしたいとか思ったけど、今は特にそうは思わないし。
仁科さんは私の「無理だよ」の言葉に深く追求することはせず「そっか」と一言だけ告げると、私の反応を伺うようにして話題を変えた。うん、助かる。
「お正月は何をしてた?」
「ずっと、家にいたよ」
「実家に帰ったりは?」
「うん、しない。ずっと家にいた」
せっかく話題を変えてくれたのに、またあまり触れられたくない話題に。自分で言うのもなんだけど、私と会話をするの面倒だろうな。
申し訳ないと思いつつも、今理由を話す気にもなれない。話されても困ると思うし。今度は私が話題を変えようとすると先に仁科さんが口を開いた。
「そっか。僕も同じ」
「え……?」
「親が再婚同士で。なんとなく、居心地が悪い」
同じだ。
そうひと言口にするのは簡単なのに、言えなかった。「そうですか」と答えれば彼もそれ以上話す気はないのだろう、口を閉ざした。
打ち解けたようでまだどこか打ち解けきれていない。距離が近づいているようでまだどこか見えない壁を作る。それが私たちの今の距離感。でも、この距離感が今はとても心地いいから。