シュガーレス
第13話 Present love
「あの時の、返事……?」
私、何か仁科さんから返事を求められるようなことを言われていただろうか。
「返事はまたいつか会えた時に、だっけ」
「それ……」
仁科さんの言葉に、昔、自分がキョウヘイ君に告白されたときのことを思い出す。
「今の自分じゃ返事出来ないって言ってたけど、今のミキちゃんなら返事、できるよね?」
「え……」
今、ミキちゃんって言った……? どういう、こと?
急速に早まる胸の鼓動を抑え込むように胸に置いた手をぎゅっと握りしめた。私のこと、だよね? 私をミキちゃんと呼ぶ人なんて……
「さっき。あの人にいきなり名前を呼ばれて、どうしてこの人が僕の名前を知っているんだろうって疑問に思って」
あの人とは堤さんのことだろう。
堤さんが仁科さんのことを勘違いしてキョウヘイ君と呼んだ。
「今までの福田さんとの会話をふと思い出してたら、僕も、少しだけ昔を思い出したよ」
予測もしなかったことが今起ころうとしていて、事実を本人の口から聞く前に大方の予想がついた私は、胸を掴んでいた手で口を覆って言葉を失っていた。
そうだ、ずっと感じていた違和感。
私はあのカレのことをキョウヘイ君とは呼んでいなかった。苗字が、ずっと思い出せなくて……
「どうして、すぐに気が付かなかったんだろう」
「ずいぶん、昔のことだから……。でも、名前が……」
「うん。僕も両親が離婚してるから。前の苗字は菊池だった」
「あ……」
震える声で「菊池君?」と呟くとゆっくりと頷いた。菊池恭平君。そうだ、初恋の人の名前だ。
「福田さんも、苗字が変わっちゃってるね。でも病院で、福田実希子ってフルネーム聞いてるのに、全然気づかなかった。話もいっぱい聞いたのに」
「仕方、ないよ……私だって、全然」
別れてからあまりにも長い時間が経過して、記憶も薄れ、顔も声も、すべてがあの頃とは違うのだから。
「好きだ、ミキちゃん。十年後に僕のお嫁さんになって」
「……」
「違った?」
「うん。たしかフツーに「僕ミキちゃんのことが好きだよ」だった気がする……」
「そうだった? 今も昔もつまんない男だね」
同時に俯いて、クスリと笑い合う。「じゃあ、気を取り直して」の言葉に、顔を上げた。
「ミキちゃん、好きだ」
そうだ、私のことを唯一名前で呼んでくれる友達だった。
「返事、聞かせてくれる?」
「……うん」
初恋は実らないって言うけど、
「ごめんなさい……!」
やっぱり、そうだったね。
「私今、他に好きな人がいるの……!」
目をぎゅっと閉じて俯いたら、目に溜まった涙が一気に流れ出して床に落ちた。「うん」と優しい声が耳に響いて両肩に手がそっと添えられた。
「また会えてよかった」
「うん、うん……」
「僕もキミと同じように、昔を思い出したら久々にまた、恋をしたくなったよ」
「いってらっしゃい」と仁科さんに背中を押され、私は堤さんの元へと向かった。
私、何か仁科さんから返事を求められるようなことを言われていただろうか。
「返事はまたいつか会えた時に、だっけ」
「それ……」
仁科さんの言葉に、昔、自分がキョウヘイ君に告白されたときのことを思い出す。
「今の自分じゃ返事出来ないって言ってたけど、今のミキちゃんなら返事、できるよね?」
「え……」
今、ミキちゃんって言った……? どういう、こと?
急速に早まる胸の鼓動を抑え込むように胸に置いた手をぎゅっと握りしめた。私のこと、だよね? 私をミキちゃんと呼ぶ人なんて……
「さっき。あの人にいきなり名前を呼ばれて、どうしてこの人が僕の名前を知っているんだろうって疑問に思って」
あの人とは堤さんのことだろう。
堤さんが仁科さんのことを勘違いしてキョウヘイ君と呼んだ。
「今までの福田さんとの会話をふと思い出してたら、僕も、少しだけ昔を思い出したよ」
予測もしなかったことが今起ころうとしていて、事実を本人の口から聞く前に大方の予想がついた私は、胸を掴んでいた手で口を覆って言葉を失っていた。
そうだ、ずっと感じていた違和感。
私はあのカレのことをキョウヘイ君とは呼んでいなかった。苗字が、ずっと思い出せなくて……
「どうして、すぐに気が付かなかったんだろう」
「ずいぶん、昔のことだから……。でも、名前が……」
「うん。僕も両親が離婚してるから。前の苗字は菊池だった」
「あ……」
震える声で「菊池君?」と呟くとゆっくりと頷いた。菊池恭平君。そうだ、初恋の人の名前だ。
「福田さんも、苗字が変わっちゃってるね。でも病院で、福田実希子ってフルネーム聞いてるのに、全然気づかなかった。話もいっぱい聞いたのに」
「仕方、ないよ……私だって、全然」
別れてからあまりにも長い時間が経過して、記憶も薄れ、顔も声も、すべてがあの頃とは違うのだから。
「好きだ、ミキちゃん。十年後に僕のお嫁さんになって」
「……」
「違った?」
「うん。たしかフツーに「僕ミキちゃんのことが好きだよ」だった気がする……」
「そうだった? 今も昔もつまんない男だね」
同時に俯いて、クスリと笑い合う。「じゃあ、気を取り直して」の言葉に、顔を上げた。
「ミキちゃん、好きだ」
そうだ、私のことを唯一名前で呼んでくれる友達だった。
「返事、聞かせてくれる?」
「……うん」
初恋は実らないって言うけど、
「ごめんなさい……!」
やっぱり、そうだったね。
「私今、他に好きな人がいるの……!」
目をぎゅっと閉じて俯いたら、目に溜まった涙が一気に流れ出して床に落ちた。「うん」と優しい声が耳に響いて両肩に手がそっと添えられた。
「また会えてよかった」
「うん、うん……」
「僕もキミと同じように、昔を思い出したら久々にまた、恋をしたくなったよ」
「いってらっしゃい」と仁科さんに背中を押され、私は堤さんの元へと向かった。