シュガーレス
 麻薬ってこんな感じなのかな。一度味をしめたら抜け出せなくなるような、まるで中毒症状。関係を断ち切れない理由の一つでもある。
 長いキスから解放されると、酸欠状態で息を切らしながら相手の胸にもたれかかる。広く温かい胸に頬をぴたりとつければ相手の鼓動が伝わってくる。自分と同じ速さだと安心を覚えるなんて馬鹿馬鹿しいよね。
 「もう終わり?」
 耳元で囁かれる言葉。息が上がっているのが分かる。
 バランスを崩されて床に手をつく。背後から覆いかぶさってくる気配とひんやりとした床の感触に息を吐いて身を固める。
 手慣れた手つきでブラウスのボタンをはずし、下着を押し上げ直に肌に触れる。冷たい指先に身体が驚いて「うっ」と小さな声と共に身体がゾクリと跳ね上がる。
「寒い?」
 片方の手で胸に触れ、唇を耳に寄せ熱い吐息で語りかけてくる。
 そしてもう片方の手を、冷たい床に投げ出されたわたしの手を覆うように重ね合わせた。
「冷たい手。この部屋、なんでこんなに寒いんだ?」
「エアコン、入れてない……だけ」
「ベッド行こう」
 重ね合わせた手をそのまま引いて私を抱き起そうとする。
「……しないで」
「ん」
「優しくしないでよ」
 俯いたままポツリと呟いた。
 堤さんは何も答えず、ふっと小さく息を吐くと強引に私を抱き上げてベッドに下ろし肩を押して倒した。
 起き上がろうとするとすかさず堤さんの身体が覆いかぶさってきてベッドに押し付けられる。そしてそのまま頭をかき抱くようにしてきつく抱きしめられた。
 温かい体温に包まれて、大きな手に頭を撫でられているみたい。堪らず手を伸ばして相手の背中に腕を回した。
 いつまで、こんなことを続けるのだろう。愛のない行為にしがみついて、偽物の優しさに癒しを求めるのだろう。身体は満たされても、心はいつもからっぽになる。
 あとになって酷い孤独感に襲われるのは目に見えているのに、一時的な救いに手を伸ばして今日も私は彼に抱かれる。
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