シュガーレス
 さっきまで熱を持って熱くなっていた身体が嘘のよう。
 事が終わって身体が離れれば、息はまだ上がっているのに急にひんやりとした空気が全身を冷ましていく。相手がベッドを出る気配を感じながら、ベッドの布団の中で丸まっていた。
「じゃ、俺帰るわ」
 着替えを終えた堤さんの声が背後から聞こえる。背中を向けたまま答える。
「シャワーくらい浴びてけばいいのに」
「いい。ここ寒いし。帰って浴びる」
 堤さんがウチに泊まっていくことはまずなかった。ホテルで過ごした日は朝まで一緒のこともあるけど、抱き合うとき以外は一切触れあわない。
「また明日」
 返事はせず、ただじっと相手が去っていく気配だけを感じていた。
 これが、私たちの割り切った関係。寂しさをまぎらわす行為のはずがセックスのあとに寂しさを増幅させることには気づいている。
 でも私はそれを知ってて一時的な慰めに身を委ね続ける。分かってやってること。大丈夫、もう慣れた。
「……さむ」
 寒いのは、今自分が素っ裸のせいだ。ベッドを抜け出し床に散った服に手を伸ばし、シャツを一枚羽織ってバスルームへ向かう。
「……いたっ」 
 何かの角が爪先に当たる。明かりを消したままの室内は視界が悪い。
 私は爪先に当たったものを拾い上げた。長方形の分厚いアルバムだった。

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