涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。


ざわざわする。

気のせいだ。

そう思いたかった。



「なぁ岸」

「青笑さんと付き合ったってまじ?」



ホームルームが始まる前、誰かがよく通る声で言った。

それをきっかけに、また教室がざわざわとし始める。

気の所為なんかじゃなかった。



「やだー」

「涼太くんは誰とも付き合わないでほしいよね」

「うん、わかる」

「おいりょーた、彼女と部活どっちが大事なんだよ」

「メンヘラやめろ(笑)」



どんどん壁際に追い詰められていくような圧迫感。

息が苦しい。


「五組のやつが朝一緒に登校してくるの見たって」
「わたしも見たー」


だまって

空が悪く言われるのはいい。でも、


――もっと自由でいいんだよ


そう言ってくれたあの笑顔を、どかどか踏み荒らされた気がして許せない。許さない。

怒り任せにすっと息を吸い込む。



「付き合ってないよ」



自分より先に、隣から溜まった空気を吐きだすような声がして、ふっと短く息を吐いた。

それでもまだ、周りはからかい半分で口を挟む。

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