涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。

隣にいて



よく眠れなかった。

昨日は奏、いつも通りに接してくれたけど、結局あの続きは聞けないままで、目を閉じたら奏の苦しそうな笑顔が浮かんで、よく眠れなかった。

外は雨が降っていて、傘をさして登校道を歩く。

コンクリートを蹴るたび、汚れた水が跳ね返ってくる。


誰に嫌われてもいい。奏がいればそれでいい。


――けれどそれも、きっとずっとは続かないんだろう


これからのことなんか考える気ないけど。

空が離すもんかと繋いでいても、相手が離せば手は繋げない。

人はあっけなく変わる。

確かに何かのきっかけがあって、それがいつの間にかなんなのか分からなくなって。

みんな、空の前からいなくなる。

奏だけは違うと思っていたけど、違わないのかもしれない。そう疑ってしまう自分が嫌だ。


狭くて息苦しい。

支配されて、黙って、歩幅を合わせて。

苦しいから、優しくされるとすぐ期待して、信じて。

矛盾を繰り返す自分が、大嫌いでしかたない。


門を抜け、下駄箱の前で傘を閉じた。


「……っ」


ここ数日でたくさん練習した「おはよう」は、どうやら無駄だったらしい。

そんな心の内を見透かしたように岸は笑う。

久しく向けられた目と笑顔に、どっと大雨のように感情が込み上げてくる。

岸は口をつぐんだまま、クツを履き替えて颯爽と背中を向けて歩きだした。

またずしり。重く胸が痛む。

ふっくらとした形をなんとか保っていた暗い水たまりが、今の一滴で崩れ落ちた。

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