涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。

世界でたった一人




―《明日、駅に9時待ち合わせ》



きのう布団のなかで見たそれを、明るくなった部屋でもう一度読み返した。

どうやらあれは夢じゃなかったみたいだ。


もし、奏のいうデートが…そういうあれ…だったら…



――好きの意味が違ったら



ううん、ありえない…ありえないな


とりあえずなにか飲みにいこうとドアノブに手をかけたとき、一階からかすかな物音がした。



「今日いるんだ…」



リビングに行くのはやめる。

クローゼットから服を引っ張り出して着替えると、スマホと家の鍵だけポケットにつっこんで家を出た。



「…ふぅ…」



とにかくここじゃないどこかへ行きたい。

なのに歩く速度はどんどん落ちた。


……どこかって、どこ?



「空」



はっとして来た道を振り返る。



「そんなとこでなにしてんだよ」



不思議そうに眉を寄せる奏を見て、そのときやっと深く息を吸った。



「あー…静流(しずる)さん今日いる日か」



察した奏が空の家を振り返って呟く。



「じゃぁ…今から行く?」



こっちを向いた奏はニヤリと笑っていた。



「行こうぜっ」

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