涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。
余裕を見せつけるように笑うと、奏はスッと立ち上がった。
ペチッ
「いてっ?!」
おでこに小さな痛みを感じて顔をあげる。
奏の人差し指と親指が、もう一度おでこではじけた。
「え、なに?痛いんですけど。ケンカ売ってんの、買うぞ」
ケンカ上等だったのに。
見たことないくらい優しい顔で奏が笑うから、それ以上何も言えなくなる。
「転校しても会いに行ってやる」
いみわかんないくらい、いつも自信満々で、いつも分かってくれて。
「……うん」
不安をふっ飛ばしてくれる。
「空がいないと寂しくて泣いちゃうもんね~〜?」
「はっはーーぁっ?!寂しくても泣かねぇし!!男は泣かねぇんだよ……!!」
「あははっ寂しいんじゃん」
どんな時も笑かしてくれる。
転校したくない。
奏と離れたくない。
ずっと一緒にいたいよ。
知らない間に勝手に話は進められていて、高校二年生の六月。
「自己紹介してくれるかな?」
梅雨なのに晴れたこんな日に。
なんの準備もできていないまま、知らない人たちを見下ろしている。
「……」