涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。
玉子丼おいしそう……ってだめだめ。
授業中お腹鳴ったらどうしよう……帰りたい。
このまま走って逃げてやろうか。
そんな投げやりな言葉で心をごまかすことしかできない。
階段を降りて踊り場を歩く。
次の階段に足をかけたとき、馴染みのある声が小さく、くっきりと聞こえてきた。
「はい。娘さんがこちらに戻ったらまたご報告いたします。はい、はい。」
驚くほどなめらかな敬語は、似合ってない。
「はい。失礼いたします。」
テンポよく階段をのぼっていた藤村さんは、電話を切った後、はあと面倒くさそうにため息をつき、顔を上げた。
目があい、あからさまに「げ」という顔をした藤村さんは、素早くもう一度ケータイを耳にあてる。
「あー……もしもし藤村です」
「娘さん戻られました。……そうですねクラスメイトと一緒に。」
「おまえら怪我は?」
狐のようにキリッとした目で見上げられて、ぼうっとしたまま首を横に振る。
りょうたは隣で小さく「ないです」と答えた。
「……はい無事です。ふたりとも。」
「すみません……また掛け直します。」