涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。


「失礼いたします。」



力が抜けたように腕をおろした藤村さんは、また階段をのぼる。

怒られるかもしれないと身構えていたら、すっと横を通り過ぎていった。



「先生ありがとうございました」



りょうたが後ろを振り返って言う。

先生はゆっくりと足を止めて振り返った。



「傘は?」



聞かれてドキッと胸が跳ねる。

だって本当は傘なんて取りに帰っていない。

りょうたは一瞬も焦った顔をしないで、貼り付けたような笑顔でずっと笑った。



「持ってくる途中ではしゃいでたら破れちゃいました。だから先生貸してくださいよ」

「バカ友達にかりろ」



ふんっと笑って踵を返す先生に、慌てて頭を下げる。

子供な自分がどうしようもなく情けなくて悔しかった。


――こんなに、迷惑かけてたんだ。




教室に近づくにつれて心拍数がどんどんあがっていく。

ドアを開けるのが、



「こわい?」



落ち着く低音が右耳に届く。

振り向くと、りょうたは余裕のある笑みで空を見つめていた。

――こわくない。

とっさに言いかけて口を閉じる。

りょうたなら、また見抜かれて終わりだ。

ふぅと誰にも気付かれないように息を吐き、次に吸ったときには最強になろうと心のなかで決めた。

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