ただ愛してるだけ
「はぁー。」

緊張は、最高潮に達する。

その時だった。

一度はけたはずの安宅君が、隣にいた。

「安宅君、大丈夫なの?」

「急いで支度すれば、大丈夫ですよ。」

そう言って、私の背中に手を当ててくれた。

「これで大丈夫。」

彼の温かい手が、温もりになって、背中から伝わってきた。


「慶人君。準備、準備!」

「はーい!」

スタッフに言われて、彼が行こうとした時だ。

「あ、あの!」

なぜか、彼を引き留めてしまった。

振り返って、私を見る彼に、息を飲みこんだ。

「……慶人君って、呼んでもいい?」

どうして、震えた声でそんな事を言ってしまったのか、今でも分からない。

だけど、彼との距離を少しでも縮めたかったのは、本当だ。

「うん。」

彼は、そう返事をすると、歌の準備に行ってしまった。
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