ただ愛してるだけ
「そうだ、この前。」

慶人君が、急にフォークを降ろした。

「こんな時に言うのも何だけど。」

「うん。」

「なんか、付き合った途端に、手を出しちゃってごめん。」

私は、吹きそうになった。

「えっ?」

「いや、もっと大切にしようって。ちゃんと、夕陽さんが僕の事を好きになってから、抱こうって思っていたのに。」


この前の、熱いあの夜の事を思い出す。

彼の熱で、とろけそうになったあの夜だ。


「いいのよ。気にしないで。」

「でも、」

「初心な少女でもあるまいし。それに……」

「それに?」

私は、息をゴクンと飲んだ。

「……ちゃんと、慶人君の好きだから。」

「夕陽さん。」

慶人君が手を伸ばして、私の手を握ってくれた。


幸せって、こういう事を言うのかなと思った。
< 42 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop