あなたの隣で ~短編集~
酒井の友達が「どういうこと?」と言うと、彼女は続きを話し始めた。


「入試の日、朝から体調が悪かったの。学校の前で貧血を起こしてしゃがみ込んでたら泉くんが『大丈夫?』って声をかけてくれて、時間もないのにわざわざ保健室まで連れて行
ってくれたの。もしあの時、泉くんがいなかったらどうなっていたかって思うんだ」


あの時、泉くんを好きになったの。


そう言って照れ笑いする彼女の声を聞きながら、俺はまた驚いた。


あの時の子が、君だったのか。


 あの時、しゃがみ込んだ女の子を見て放っておけなかった。


みんなが彼女の横を通り過ぎる中、俺は彼女に声をかけたんだ。


──ガラッ。


その時、教室のドアが開いて酒井たちが出てきた。


「いっ泉くん。……聞いてたの?」


赤く染まった彼女の顔は、よく見ると確かにあの時の子だった。
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