あなたの隣で ~短編集~
昔から海が好きだった。


何かあっても、海に来ると忘れられた。


 今日も私は海に来ていた。


目を閉じて潮の香りを吸い込んで、目を開けた。


「うわっ!?」


気付いたら、隣に見知らぬ男の子が立っていた。


足音がしなかったから気づかなかった。


「海、好きなの?」

「……うん」


不思議な声だ。


穏やかな波の音のような声。


この人は、何なんだろう。


初めて会ったのにまるでずっと昔から大好きだったような感覚。


それは恋とかそういうのじゃなくて、私が何よりも海が大好きなことと似たような感情だった。


「僕も好きだよ。……君のこと」

「──え?」


私が彼の方を向くと、そこには誰もいなかった。

海から彼の声が聞こえたような気がして海を見るけど、やっぱり彼はいない。


 波の音は、いつも以上に優しかった。
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