隠された鏡の伝説Ⅰ選ばれし者の定め
獰猛(どうもう)で残忍(ざんにん)そうな顔をゆがめて、痛みに脂汗を流していた表情は、穏やかなものに変わり、その閉じたまぶたが震えていた。
ディアナが見つめていると、男は顔を上げて目を開き、ディアナのことを今初めて会ったかの様に、不思議そうな目で見た。
男は、戸惑っているようだった。視線を床に落とすと、混乱した様子で震えながら言った。
「今のは何だ?俺は、夢をみたのか?」
そこにいたのは、ここにやってきたときの傲慢な盗賊の姿からは、想像も出来ないほど弱りきった男だった。
「俺は、見たんだ。俺がガキのころにした初めてのかっぱらいを、別のやつがしていやがった。そっくりそのまんま、同じ場所、同じ手口だ。店の親父も俺がかっぱらいをした店の親父と同じだった。ガキは、昔の俺とおんなじ様な、いつも腹をすかせた薄汚ねえガキだ。俺は盗みなんか、どうとも思っちゃいねえし、どこぞのガキが盗みをしていようと、とっつかまって大なべに放り込まれて食われちまおうと、知ったこっちゃねえ。だがよ、俺は今、そのガキが盗みをしようとするのを止めていた。この俺様が、どこかの知らねえガキのやろうとしている盗みを止めやがったんだ。」
バルバクリスは、まるで、今見た光景の中に出てきた、自分と同じ顔をした男の行為に、懸命に腹を立てようとしているかのように見えた。
「それから、俺は、俺が初めてした殺しの場面も見た。これも殺していやがったのはおれじゃあねえ。みたこともねえ、知らねえヤツだ。こいつのことも、俺は止めさせていた。」
バルバクリスは、まるで自分の前にいるのが、小さな少女ではなく、大人ででもあるかのように話し続けた。
「今まで、俺が盗賊頭になってやらしてきた盗みや強盗も出てきた。でもやらしているのは俺じゃあなかった。」
バルバクリスは、ぼんやりとした顔でディアナを見た。ディアナは黙って聞いていた。
ディアナが見つめていると、男は顔を上げて目を開き、ディアナのことを今初めて会ったかの様に、不思議そうな目で見た。
男は、戸惑っているようだった。視線を床に落とすと、混乱した様子で震えながら言った。
「今のは何だ?俺は、夢をみたのか?」
そこにいたのは、ここにやってきたときの傲慢な盗賊の姿からは、想像も出来ないほど弱りきった男だった。
「俺は、見たんだ。俺がガキのころにした初めてのかっぱらいを、別のやつがしていやがった。そっくりそのまんま、同じ場所、同じ手口だ。店の親父も俺がかっぱらいをした店の親父と同じだった。ガキは、昔の俺とおんなじ様な、いつも腹をすかせた薄汚ねえガキだ。俺は盗みなんか、どうとも思っちゃいねえし、どこぞのガキが盗みをしていようと、とっつかまって大なべに放り込まれて食われちまおうと、知ったこっちゃねえ。だがよ、俺は今、そのガキが盗みをしようとするのを止めていた。この俺様が、どこかの知らねえガキのやろうとしている盗みを止めやがったんだ。」
バルバクリスは、まるで、今見た光景の中に出てきた、自分と同じ顔をした男の行為に、懸命に腹を立てようとしているかのように見えた。
「それから、俺は、俺が初めてした殺しの場面も見た。これも殺していやがったのはおれじゃあねえ。みたこともねえ、知らねえヤツだ。こいつのことも、俺は止めさせていた。」
バルバクリスは、まるで自分の前にいるのが、小さな少女ではなく、大人ででもあるかのように話し続けた。
「今まで、俺が盗賊頭になってやらしてきた盗みや強盗も出てきた。でもやらしているのは俺じゃあなかった。」
バルバクリスは、ぼんやりとした顔でディアナを見た。ディアナは黙って聞いていた。